リスクを抱えるドル建て年金保険は確定拠出年金には敵わない
目次
「保険料の支払い」からみるドル建て年金保険のリスク
相対的に金利が高い外国通貨で運用するため、返戻率が130%~150%になるドル建ての年金保険は、銀行金利の低迷も相まって、その認知度はかなりの速度で広まってきています。
確かに返戻率の数字だけを聞くと、かなりパフォーマンスが高い商品という印象を持ちがちですが、あくまで「ドルベース」での数字であり、実際には満期まで支払ってきた保険料や満期保険金・年金原資を、ドルで支払い・受け取りするケースはほとんどなく、そのときの為替レートで換算して円で受け取るでしょう。
そのため、満期までに「日本円でいくら支払ってきたのか」が非常にわかりづらく、日本円に換算した実際の返戻率を予測することは非常に難しいものとなっています。
満期保険金や年金など、「受け取り」時の段階の為替レートが「円安・円高」といった議論はよく出ますが、結局のところは、「日本円でいくら支払ってきたのか」が重要なのであって、トータルの支払金額についてはなかなかフォーカスされません。
「支払金額が固定でない」ことは、いくら支払っているのか、いくら支払ってきたのか、が不明瞭になってしまい、返戻率を考慮する際には非常に大きなリスクと言えます。
確定拠出年金とは?
確定拠出年金、通称「401k」と呼ばれるこの制度について、言葉は聞いたことがあるけど・・・といった方が多いのではないでしょうか?
年金保険と同様に、毎月一定額の掛け金(保険料)を拠出し、その自身の責任の下で運用していき、老齢給付金(原則60歳から年金または一時金)、障害給付金(高度障害時に年金または一時金)、死亡一時金(死亡時に一時金)が保障されている仕組みとなっています。
仕組みは年金保険と似たようなものとなっており、異なる部分としては、「運用先である投資信託を自分で選択して金額を振り分ける」ことになります。
このような書き方をすると「運用がどうなるか」といったことに目が行きがちですが、最大のメリットは、掛け金(保険料)が全額「所得控除」されることにあります。
ドル建て年金保険と確定拠出年金の「控除」の違い
一般的にドル建ての年金保険は、「個人年金保険料控除」ではなく「一般生命保険料控除」に該当します。(マニュライフ生命の外貨建て年金保険は、個人年金保険料税制適格特約を付加し、所定の条件を満たすことで個人年金保険料控除が可能)
一般生命保険料控除は、収入保障保険や終身保険など、死亡保障を目的とした保険が該当する項目であり、年間払込保険料額が80,000円を超える部分については、所得税が一律40,000円、住民税が一律28,000円の合計「68,000円」が上限となっており、年間払込保険料額「80,000円」がすでに収入保障保険や終身保険の保険料で埋まっている場合、ドル建て年金保険の保険料は控除できないことになります。
一方、確定拠出年金については、拠出できる限度額が職業区分で決まっていますが、自営業者で月額68,000円・年額81万6,000円、会社員の方で月額23,000円・年額27万6,000円、公務員の方で月額12,000円・年額14万4,000円、主婦(主夫)の方で月額23,000円・年額27万6,000円となっています。
ドル建て年金保険は、仮に、死亡保険に何も加入しておらず「一般生命保険料控除」が受けることができたとしても、年間で控除できる生命保険料控除額は最大「68,000円」に対し、確定拠出年金は、自営業者の方であれば最大「約81万円」、会社員の方でも「約27万円」を所得から控除できます。
ケースで見る確定拠出年金の「全額控除」の効果
年収500万円の30歳男性独身会社員のケースで、実際にどの程のメリットがあるのか、実際の金額で試算を行ってみます。基礎控除38万円、社会保険料控除71万円とし、確定拠出年金で拠出できる最大額「月額23,000円」を確定拠出年金に拠出した場合と、ドル建て年金保険(全額一般生命保険料控除可能と仮定)に加入した場合とで考えます。
年収500万円 - 給与所得控除154万円 = 給与所得346万円
①生命保険料控除の場合
所得税:給与所得346万円 - 所得控除(社会保険料控除71万円 + 基礎控除38万円 + 生命保険料控除4万円) = 課税所得233万円
課税所得233万円 × 10% - 97,500円 = 所得税135,000円
住民税:給与所得346万円 - 所得控除(社会保険料控除71万円 + 基礎控除33万円 + 生命保険料控除2万8,000円) = 課税所得239万円
課税所得239万円 × 10% = 住民税239,000円
②確定拠出年金の場合
所得税:給与所得346万円 - 所得控除(社会保険料控除71万円 + 基礎控除38万円 + 小規模企業共済等掛金控除27万6,000円) = 課税所得209万円
課税所得209万円 × 10% - 97,500円 = 所得税111,000円
住民税:給与所得346万円 - 所得控除(社会保険料控除71万円 + 基礎控除33万円 + 小規模企業共済等掛金控除27万6,000円) = 課税所得214万円
課税所得214万円 × 10% = 住民税214,000円
節税効果
生命保険料控除を仮に適用できた場合と比べて、確定拠出年金による「全額控除」による節税効果は、年間で49,000円になります。
仮に年収が60歳まで変わらず500万円だとすると、30年間でその節税効果は147万円(49,000円×30年)になります。
ドル建て年金保険の保険料が控除を受けることができなかった場合は、その効果はもっと大きくなります。
また、年収が以降上がっていった場合は所得税率が上がっていくため、より節税効果が高まります。
節税効果からみる確定拠出年金
確定拠出年金は、自分で運用先を探す必要があるため、高度な金融知識が必要と思われますが、実は節税効果を考えると、元本保証型の商品でも十分なパフォーマンスを発揮します。
例えば、運用率「0%」、つまり増えもしないが減りもしない商品を運用先として選択したとします。
毎月23,000円を拠出し、30年間続けたとすると、トータルの掛金は「828万円」となります。
上記で計算した節税効果は30年間で「147万円」となりますので、その効果を計算すると、(147万円 + 828万円)÷ 828万円 = 117.75%となります。
30年間「0%」で運用しても、ノーリスクで約117%もの運用ができるため、ドル建て年金保険と同様に、金利水準の高い米国債券などに投資する商品を選択すれば、優に120%を超える成果が期待できるでしょう。
確定拠出年金の問題点
いったんスタートすると、60歳までは解約することができないため、流動性という点ではデメリットとなります。
また、運用管理費用などがかかるため、余計なコストがあります。
ただ、銀行・証券会社によっては、驚くほど低コストでの扱いを行っているところもあるため、会社選びをしっかりすることで、可能な限り抑えることができるでしょう。
リスクを抱えるドル建て年金保険は確定拠出年金には敵わない、まとめ
ほぼノーリスクで120%近い効果が期待できるのが確定拠出年金です。
国が推進する制度ですので、税的にかなり優遇されている部分が多いです。(運用益が非課税だったり、受け取り時の控除)
将来の資産形成という観点では、余計なリスクを取らずとも増やすことができますし、同じ為替変動リスクを取るのであれば、掛け金が全額控除できる確定拠出年金のほうが、ドル建て年金保険よりも優れているでしょう。